疲れ果てていたのだろう。今回の青木部長との東京出張は、疲れることばかりで、普段の自分を出せないでいた。洋司は40歳。昨日が誕生日だったが、独身の洋司にとっては誰も祝ってくれる人などいなかった。得意先の挨拶周りで何の収穫もない毎月の出張は、店長の洋司にとってはもはやお荷物の仕事でしかない。その都度同行する相手は変わるが、出張の内容自体は同じようなもので、空港までの車移動、羽田からの電車やタクシー乗り換えなど、手配はいつも自分の役目だった。飛行機も退屈で、最近は相方とは少し離れた席を予約することにしていた。毎月のように乗り慣れてしまった飛行機だが、思い出せば、初めて飛行機に乗ったのは小学生の頃。飛行機に乗りたいと親にせがんだが、経済的にそんなお金は家にはなかった。それが4年生の夏、みかねた祖父が、どこからかお金を用意して乗せてくれた。酒が好きで、時には家族に迷惑ばかりかけていたやっかいな祖父だったが、孫のためにとどうにか工面したのだろう。初めてのフライトは一番安い料金の遊覧飛行で祖父と二人きりの初体験だった。たった30分くらいの飛行だったが、それでもうれしかった。大空に飛んでいるのが、子供の洋司にはまさに宙に舞っているようだった。あのとき上空から見た空の青さは今でも覚えている。その夏の夏休みの宿題は大きな画用紙いっぱいの飛行機の絵だったが、描き切らない前に祖父は急な腎不全で亡くなった。楽しい夏がそのとき寂しい別れの夏に変わった。今でもその季節になると、ふとあの忘れられない夏の空を思い出す。祖父の笑い顔と画用紙に描かれた大きな飛行機の絵を。もしかすると、飛行機は祖父が乗りたかった夢だったのかも知れないと洋司は思った。

このストーリーはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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