自動チェックイン機の画面で、圭太の指が止まった。窓側のボタンの上だ。やがて少しためらうと通路側の席を選んだ。今までは飛行機に乗る時、ほとんど窓側に座る。昔から外の景色を眺めるのが好きだった。天候が悪く曇っている時でも、窓側だった。流れる雲や窓ガラスを流れつたう雨を、ぼんやりと眺めていると自然に落ち着く。飛行機と一体になって空を飛んでいる感覚が好きだった。でも、きょうは違った。その心地よさをわざと忘れたかったのかも知れない。そして、現実から少し距離をとりたかった気持ちもあった。きのうの通夜は、何も感じなく、ただ読経が暗闇の中に静かに流れていくような時間だった。何のために参列しているのかさえ、考えることも出来ずに目を閉じていた。通夜だけは出席したいと決め、同僚に無理を言って休みをもらい、昨日の便で新千歳まで飛んできた。そして今日、弔いの時間が終わり、実感のないまま東京へ帰る朝の便に乗っている。故郷を離れ、一緒に東京暮らしを始めた友の死に、涙も出ない自分が、どうして冷静でいられるのか、不思議だった。エンジンが唸り、シートに体が押しつけられる。今まで無感覚の体の感覚が、やっと戻ってくるようだ。飛行機が走り出し振動が首筋にも伝わってくる。やがて振動が止み離陸。機体は上昇しながら、大きく右へ旋回を始めた。朝の陽の光が、機体の窓から機内の天井へと差し込み、旋回していくと同時にその光がスポットライトのように機内の天井や壁を動き回る。旋回は続いてゆく。ふと目を開け、遠くの右の窓へ目をやった。大きく傾いた機体の窓から、朝日に照らされた白い雪の大地が見えた。機体は回りながら上昇を続け、同時に白い大地もどんどん眼下に遠く広がってゆく。突然、圭太の目に涙があふれてきた。いきなりの涙だった。傾いた座席で涙が右の頬へと流れていく。嗚咽と涙が同時に襲ってくる。今、友との永遠の別れの実感に襲われた。ちょうど一年前、この故郷に帰った友。経済的に苦しい両親を支えなければという事情で悔しい表情での別れだった。あれからたった一年での死がどうしても信じられない。目を閉じれば涙が溢れ落ちるが、しっかり目を見開き、窓の外の涙でゆがんだ大地を見続けた。涙がにぎりしめた拳に落ちる。この悲しさを乗り越えられたら、きっとまた会いにくるよと友に誓った。旋回を終えた窓の外には輝く朝の津軽海峡が光っていた。
このストーリーはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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